ソガイ

批評と創作を行う永久機関

「危うさ」と「きわどさ」の魅力としての、堀江敏幸『砂売りが通る』

読書の醍醐味のひとつに「再読」があることは、論をまたない。とはいえ、折に触れて何度も何度も紐解きたくなるような作品なんてものは、そうそう出会えるものではない。一般的に評価が高くても、それは、その作品が自分にとって何度も読みたくなるものにな…

野坂昭如『戦争童話集』をきっかけに考えてみる、「当事者意識」というもの

インターネットやSNS等で、だれでもどこでも、世界中の情報を得ることができるような社会になったが故に、かえって、「当事者性」といったものが持つ力が、もはや特権的とでも言えるくらいに大きくなっているように感じられる。 文芸の世界でも、これはホ…

情報化社会の極限の可能性としての、野﨑まど『know』

野﨑まど作『know』(2013年 早川書房)は、人造の脳葉<電子葉>を人間の脳に移植することが義務化された、2081年の京都が舞台の作品である。 常に周囲の情報をモニタリングしている「情報素子」を散布された≪情報材≫がいたるところに設置されており、人間…

世界から見捨てられた人々、世界を見捨てる人々 『ファイト・クラブ』から見るテロリズム

テロリズム、あるいは個人かせいぜい数人の集団による無差別殺人は現代を特徴づける一つのキーワードかもしれない。これらの事象は国内に限らなければ、それこそ毎日のように発生し続けている。それらの原因は政治、経済、宗教、民族など様々な要素に分解さ…

人生の童話~『雪のひとひら』書評~

新装版が1冊と文庫が2冊、となぜか3冊持っている小説がある。(2冊目の文庫はちょっとした行き違いによるものだが。)ポール・ギャリコ『雪のひとひら』(矢川澄子訳)である。 題名通り、「雪のひとひら」と作品内で呼ばれる一片の雪の結晶を主人公とし…

遅読のすすめ~宮沢章夫『時間のかかる読書』を参考に~

どこを歩いていても書店を見つけては吸い込まれ、一時期は書店に勤めていた人間として感じるのは、相変わらず「速読」本は、ひとつのコーナーを作れるほどには店頭に並んでいる、ということだ。 なにを隠そう、私自身、高校生の頃だったと思うが、何冊かの速…

「ジャンル」を「パラダイム」にしないために

芥川賞・直木賞の季節が、またやってきた。 正直なことを言うと、芥川賞・直木賞の候補作が発表されても、受賞作決定までにそのほとんどの作品を読むことができていない。(今回は芥川賞候補については3作品読んだ。無難、と言われるかもしれないが一押しは…