ソガイ

批評と創作を行う永久機関

宵野雪夏

「ジャンル」を「パラダイム」にしないために

芥川賞・直木賞の季節が、またやってきた。 正直なことを言うと、芥川賞・直木賞の候補作が発表されても、受賞作決定までにそのほとんどの作品を読むことができていない。(今回は芥川賞候補については3作品読んだ。無難、と言われるかもしれないが一押しは…

文学は役に立つ 石原千秋『近代という教養 文学が背負った課題』書評

いちおう私はこういったブログを運営しているわけだが、正直な話、文学研究や批評の類の文章を読んでいても、よくわからないことが多い。それは、自分の頭が追いついていないせいだ、と思って後ろめたさのようなものを感じていた。いや、その意識自体はいま…

饒舌な感想『BAMBOO BLADE』

最近少し更新が滞っていましたので、リハビリではないけれども、軽めの感想記事を書いていきたいと思います。 『BAMBOO BLADE』(以下『バンブレ』)はやや古いかもしれないが、アニメ化もしたことがありますし、けっこう有名な作品なのではないでしょうか。…

投げ銭のお願いとソガイ電子版販売

投げ銭 ソガイの活動に協力して頂ける方は、是非アマゾンギフト券を以下のアマゾンのサイトから送信ください。 宛先は以下のとおりです。 sogaidenshi@gmail.com 冊子発行の赤字穴埋め等に使われます。金額は15円から可能です。また希望する筆者名をメッセー…

『式の前日』感想

ストーリーテラーというのは、こういうものを生み出すことのできるひとのことを言うのだろうな、と思ったものだった。 このマンガがすごい!2013(オンナ編)の第2位にもランクインしたこの作品は、表題作の『式の前日』をはじめとした6編の短編からな…

『ソガイvol.2 物語と労働』紹介

表紙と裏表紙 表紙に書いてあるようにソガイ第二号のテーマは「物語と労働」です。 紙版はB5版で80ページ、定価は500円です。 電子版もあります 目次と概要(クリックすると該当箇所の一部が読めます) 論考 次元を越えた「瓜二つ」―― 磯﨑憲一郎『赤の他人…

文学を歩む~明治五年「かたわ娘」福沢諭吉

福沢諭吉、と言えば、「学問のすゝめ」などの啓蒙書の方で有名だろう。そんな福沢の、これは小説といっていいのか分からない、おそらく寓話とでも言うべき掌編、「かたわ娘」を読んでみよう。 題名が題名なだけに、初回で取り上げるのに多少悩まされた。念の…

文学を歩む~明治四年『安愚楽鍋』仮名垣魯文~

仮名垣魯文。名前を聞いたことがあるひとは、それなりにいるだろう。日本史を習っていれば、いちおう出てくる人物ではある。『安愚楽鍋』は、そんな彼の代表作、と言ってもいいだろう。ちなみに「安愚楽鍋」とは、気軽に食べられる牛鍋のことを言うらしい。…

文学を歩む~明治三年『西国立志編』~

この世には、数え切れないほどの名作がある。小説好きなのに、それも読んでいないのか、と言われることも少なくないが、そんなことは物理的に不可能だ。 かといって、気になったものだけを読んでいればいいか、となると、それも少し違う気がする。そもそも、…

『味噌汁でカンパイ!』感想

第一印象は、「おもしろそうだし、自分は好きだと思うけれど、果たしてネタが持つだろうか」という心配だった。あとは、「最近の漫画のなかでは、あまりにも地味で埋もれてはしまわないだろうか」。現在五巻まで出ていることを見れば、このふたつの懸念は杞…

『それからはスープのことばかり考えて暮らした』書評

吉田篤弘の作品を読むのは、これが2冊目である。『つむじ風食堂の夜』(ちくま文庫)は、たしか2年前くらいに読んだ。現実とファンタジーのあいだのような雰囲気と、ほんわりとこころのあたたまる話が、非常に魅力的な作品だった。その後も、気になってい…

小沼丹『藁屋根』書評

『藁屋根』(講談社文芸文庫 2017年12月)を書店で見つけ、頁をぱらっとめくってみると、「谷崎さん」の文字が目に入った。ほかにも「井伏さん」「広津さん」などの名前が出てきており、これは私小説的なものなのだろう、と思う。また、少し前に『村の…

掌編小説「彼女」

「彼女」 恋人はいないし、作る気もない。周りにはそういっている。 二次会の誘いを断った帰り道、駅から家の間に立つ五十五本の街灯、その五十本目は、この町に移ってから五年の間、ずっと不規則なリズムで白と橙の光の点滅を続けている。四十五本目を過ぎ…

「宵野春琴伝」~『春琴抄』所感~

その回数をしっかりと数えたことはないが、私がいままで一番多く再読した小説作品は、おそらく谷崎潤一郎の『春琴抄』である。 私のことを知っているひとからはしばしば驚かれるのだが、私の谷崎との付き合いは、時間からすればわりと浅い。大学には入って初…

その一冊から ~私の文フリの経験に寄せて~

何度か宣伝もしてきたとおり、先日、第二十五回文学フリマ東京に参加してきた。大学時代のサークルの仲間が集まって出した冊子は、なんと、刷った分が完売した。嬉しいことである。ソガイのフリーペーパーも、予想を遥かにこえて多くのひとに手に取ってもら…

たまにはこんなコミックレビュー HERO『雨水リンダ』

おそらく最近では、『ホリミヤ』の原作『堀さんと宮村くん』のひととして有名であるHEROだが、私とHEROの出会い、というか付き合いは、現在単行本として第9巻まで出ている『HERO個人作品集』が主である。このひとの作品、きみに合っていると思うよ、と友人…

「小説の筋」論争からみた、芥川と谷崎

最近、『文芸的な、余りに文芸的な/饒舌録ほか』(講談社文芸文庫)という本が出た。 言うまでもなく、芥川龍之介と谷崎潤一郎との間に起きた「小説の筋」論争に関連する文章を編纂した本である。私はそれなりの時間をかけて、この「小説の筋」論争について…

『デレマス』独断と偏見に基づいた映像論的なもの 後編

4 光と影――期待と不安―― もっともこれは映像の世界においては常套手段といえるものであろうが、『デレマス』も数多の映像作品の例にもれず、光と影の対比がところどころで用いられている。場面として明るいシーンでは全体的に明るく、シリアスなシーンでは…

『デレマス』独断と偏見に基づいた映像論的なもの 中編

2 彼女たちが中央に立つとき 注意してみれば意外なほど明確でありながら、しかし意識していないとそうそう気づけそうもないのであるが、第一話において、人物が画面の中央に立つ場面は、実はそれほど多くない。 例外的に、シンデレラガールズのメンバーが『…

『デレマス』独断と偏見に基づいた映像論的なもの 前編

『アイドルマスター シンデレラガールズ』 いちファンによる独断と偏見に基づいた映像論的なもの これは、アニメーションはおろか、映画における表現方法の歴史もろくに学んでいない、正真正銘の門外漢による考察である。 世の中にはいま、論じやすいアニメ…

『志賀直哉随筆集』書評

『志賀直哉随筆集』書評 言わずと知れた「小説の神様」志賀直哉。しかし、志賀直哉の小説は一見した印象ほど、わかりやすいものではない。私小説だったり、心境小説だったり、そう評されることも多い志賀直哉は、反自然主義から出発している。たとえば晩年の…

『茄子の輝き』書評

滝口悠生『茄子の輝き』書評 初めての八重洲ブックセンターで浮かれていなければ、もしかしたらこの本を私は手に取っていなかったかもしれない。 というのも、芥川賞を受賞した『死んでいない者』の良さが、あまりよくわからなかった。大きな事件も極端に現…

朱を入れること

つい最近まで、掃除というものが苦手だった。足の踏み場がない、という母親の非難は自覚しながら、同時に、この混沌のなかにもたしかな秩序というものがある。積み重なった本の塔から一冊を取り出そうとすると、必ずとなりの塔を崩し、あらら、と慌てて押さ…

日本酒とノスタルジー

近頃、日本酒というものに興味を持ちはじめた。 これまでは、チェーン店の居酒屋で出てくるような、銘柄もわからない、安い日本酒しかほとんど飲んだこともなかった。それでも、私の舌にはそれなりに合っていたのだが、ある日の飲みの席で、地元が新潟である…

夢見る少女たちの観客であること~『アイドルマスター ミリオンライブ』考察~

二十代のうちは、夢を見てはいけないんです。そう言われたことがある。 ならば、それより小さいときに見ておくものなのか。いや、しょせん、子供の夢にすぎない、と言われるのがおちだろう。ならば、もっと大きくなってから? 年甲斐もなくそんな夢見て。そ…