ソガイ

批評と創作を行う永久機関

2024年5月19日雑感

 文学フリマ東京のことについて、急速的な拡大による変化や入場費導入など、さまざまな指摘や批判がなされているようだ。私としては数年前から、スタンスは少し違えど同じようなことをずっと言い続けてきたので、これ以上つけ加えるつもりはない。また、かつての風景への憧憬はあるが、元に戻って欲しいとは思わないので、「提言」をする気もない。ここ最近の変化は、良し悪しというより、この社会でこのようなイベントを継続していくためにはある程度、必然的な対応だったのだろう。その急激な速さには戸惑っているが、概ね、仕方ないか、くらいの感情になっている。

 もっとも、たとえば「自らが〈文学〉と信じるもの」のなかに、果たして特に企業系のブースが販売しているキーホルダーやクリアファイルのようなグッズ類まで含んでいいのか、運営側はそれを〈文学〉と見なしているのか、という疑問は常々ある。このコンセプトが形骸化すれば〈文学〉の二字はお飾りでしかなくなる。規模、裾野の拡大には大いに効果があるだろうが、それはさすがに本末転倒ではないのか。しかしながら私にはいまだ〈文学〉が分からない。私には分からないが、もしかしたらそれも〈文学〉といえば〈文学〉なのかもしれない。

 しかし現実問題として、いまの文学フリマ東京で売れようと思えば、インパクトがあり、タイムリーな題材、SNSなどでのこまめな宣伝活動、名の知れている書き手の起用、煌びやかで目立つジャケットイラストなどか不可欠だろう。つまり、商業出版と同じことをしなくてはならない。これは大変だ。商業出版では、やりたくないことをたくさんやらなくてはいけない。その点において、私は商業出版物をリスペクトしてもいる。

 採算を度外視してもよいアマチュアの活動で、売るためにやりたくないことをこなし続けること。それを良しとする人もいれば、なにかが違うと感じる人もいる。私は文学フリマを、既存の商業出版に対するオルタナティブとして提示されたものだと思って、あるいは思い込んでいたから大きな違和感があるが、そうではない、と言う人もいる。どちらが正しいということもないだろう。

 冷たく聞こえてしまうかもしれないが、私は、各々好きにすればいいと思う。だが、アマチュアの活動なのだから、基本的にはそうとしか言いようがないではないか。

 文学フリマに「提言」のようなものをしようと思わない理由もそこにある。私はいまの形の文学フリマを一概には否定しないし、いくらか重要な位置を占めることに意味もあると思うが、一方で、肯定にせよ否定にせよ、文学フリマに現代の文学系同人シーン、ひいては日本の出版環境の未来が懸かっているかのような語られ方をしているのを見ると、少し気負いすぎではないかと感じる。たしかに現在の文学系同人のシーンは文学フリマ一強状態だが、文学フリマ以前にも文学同人活動はあったのだから、他にいくらでも方法があるはずだ。成功しているかどうかは別にして、私でさえいろいろ試している。嫌ならば、別の道を探す。これも一つの方法だろう。

 わたくし個人については、自分のやりたいもののための手間を惜しむつもりはない。ただ、売る、ということの優先順位はさほど高くない。もちろん、ある程度は手に取ってくれる人のことを考えて企画を立てたりするが、だからといってやりたくもないことをしてまでは売る気はない。手段を目的にかえたら、元の形はぐずぐずになる。そこまでしなくてはいけないのならば文学フリマへの出店はしないし、あるいは活動をやめる。だから私は、文学フリマで売れないことに文句を言ってはいけない、と自戒を込めて言っておく。

 しかしながら、規模が急速的に大きくなったことで、文学フリマ東京が、何者でもない人がつくった、何物でもない本には非常に厳しい環境になっていることは間違いない。現代の常だろうが、厳格な市場原理が持ち込まれる。繰り返すが、それが良いことなのか悪いことなのかは人によるだろうし、客観的に見ても、一概には断定できない。良いのかもしれないし、悪いのかもしれない。

 それが理由ではないが、初の東京ビッグサイトでの開催となる文学フリマ東京39、ソガイとしては出店しない方向だ。ここ数年、文学フリマ終了後、かつてにはあった心地よい、爽やかな疲労というのがほとんど感じられなくなっている。なんだか、ただただぐったりしている。今回もそうだった。ちょうどそういうタイミングでもあったので、少し休むことにする。少し前までは、第一回のビッグサイトは是非ともという考えもなくはなかったのだが、帰りの電車で、まあいっか、という気分になった。

 その代わり、私個人としてちょっとやってみたいことができたので、ぼちぼち、その計画を練ってみるつもりだ。お披露目の機会があるかどうかはまだ分からないが、まあそのときでも、あえては宣伝せず、ひょこっと勝手にやっていることだろう。

 

(矢馬)

 

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