ソガイ

批評と創作を行う永久機関

中村光夫の可能性—『虚実』あとがきから

中村光夫といえば、『風俗小説論』における私小説批判が有名だろう。もちろん、彼の仕事はこれだけではないのだが、とはいえ、もはや『風俗小説論』こそが彼の代名詞のようになってしまっている。そんな風潮を責めているわけではない。事実、私にとってもだ…

積んである本について話してみる

日々本を積んでいて、一冊読み終わるまでに三冊は手持ちの本が増えているような有様、積み本がなくなることは一生ないのではないか、と思わないでもない私であるが、ここで一度、自分がどのような本を積んでいるのか、確認してみるのもいいだろう。 ところで…

即興小説(テーマ「虫」)2017年5月11日(?) 於:サイゼリヤ某店

ケンジくんとトモカちゃん 「ケンくん。今日はあっちに遊びにいかないの?」 夏休みになって毎日のようにケンジの部屋に入り浸っているトモカが、今日もスケッチブックを床に広げて十二色のクレヨンでなにかを一生懸命に描きながら、ベッドに横になって虫の…

「ナイン・ボウリング」自作解説?

www.sogai.net 三年前、校舎最上階の四階の音楽室にはふたりの卒業生がいた。そのうちのひとりである少女は、窓に背中を預け、顔だけを外に向けている。眼下には、緑、赤のパステルカラーの校庭。手には卒業証書が丸め込まれた黒い筒、腕には花束を抱えた卒…

「ナイン・ボウリング」7(宵野過去作)

www.sogai.net 思えば、あの四泊五日の旅行はたった半年前のことなのだった。それから、ふたりの関係はどのように変わっただろうか。いや、見かけとしてはそこまでの変化はない。観光らしい観光はしなかったあの旅行自体が、ほとんど日常の延長であったから…

「ナイン・ボウリング」6(宵野過去作)

www.sogai.net 小さい数字の球からポケットに入れていくのが面倒になり、とにかく台に乗っている球を弾き飛ばすことだけに熱中する姉は、台に顔を近づけ、手玉を挟んで、いま、もっとも当てやすい九番をまっすぐにらみ、ぎこちない動きでキューを前後させな…

「ナイン・ボウリング」5(宵野過去作)

www.sogai.net 三ゲーム目も終盤になると、さすがに疲労の色が隠せない。ある程度は指にかかった、腕の力と遠心力とが伝達した球を投げられるようになっていたはずだったのだが、いまや、振りかぶって振り子の最下点までいくと、そこで球はがたん、とほとん…