矢馬潤
2025年10月 今月は2つの本の組版に、そこに載せる文章の執筆と、自分比でなかなかに忙しい月だった。あまり本を読めないでいて気がつくと、もう月も半分を過ぎていて驚いた。 時間の進みがどんどん早くなる。いつの間にか首相も替わっているし、31歳になって…
2025年9月 先月、「本当は明るい話がしたい」と嘆いたばかりだが、世情から目を背けない限り、もはやこれは叶わぬ願いなのだろう。このような状況の中で(狭義の)政治的な主張を続ける人々の胆力は大したものだと感嘆する一方で、そこにどうしようもない不…
2025年8月 新潮社が揺れている。 きっかけは『週刊新潮』7月31日号。髙山正之が20年以上続けるコラム「変見自在」にて「創氏改名2.0」と題し、主に朝鮮半島にルーツを持ち、日本で活躍している人々を名指しして、「日本も嫌い、日本人も嫌いは勝手だが、なら…
2025年7月 今月の関心事といえば、やはり参院選になってしまう。大躍進を遂げた参政党について、私はよくある泡沫政党のようにしか思えていなかったので、今回の選挙が始まる前あたりからの報道でここまで支持を集めていることを知って心底驚いたものだった…
第173回芥川賞・直木賞は両賞とも「該当作なし」となった。これは1998年1月の第118回以来、6度目のことだという。この6という数字をどう見るかだが、個人的には、思いの外多いな、という印象だ。その第118回の候補作の作者に、今回の選考委員が3人もいるのも…
2025年6月 先月から続いていた喉の不調はようやく解消されてきた。3カ月ぶりに有給休暇も取ったし、1泊2日の軽いものではあるが茨城県水戸市に旅行にも行った。梅雨明け前のまだ6月とは思えないような暑さでぐったりしたり、目の前に落ちるオオスズメバチと…
6月15日 いまさらだが、豊﨑由美が1月17日にXにて、「安堂さんのその件はたしかに良くなかったと思っています。でも、だからといって『じゃあ安堂ホセの小説も読まないでキャンセルしてやる』という態度は不毛と思います。安堂さんに限らず、誰でも読まずに…
2025年5月 久米田康治『かくしごと』(講談社)の主人公は週刊誌で連載をもつ漫画家だが、年末年始の休みになると決まって体調を崩すという。それまで気を張り続けていた反動で、無理やり押し込めていた心身の疲労が一気に押し寄せるが故の現象だ、そんな風…
2025年4月 人類の歴史に精通しているわけではないのでそれを専門とする人間からすれば浅い認識と言われるかもしれないが、実感として、現代ほど人間が自分のことを語り、それを公に広く発表することが日常になった時代はないであろう。 自分、そしてその生活…
2025年3月 本を読むとは、かくも大変なことかと改めて思い知る。 いくつかやらねばならぬことが重なるともう本を手に取る気力は起きないし、なにもなかったらないで、もう少し軽く時間を潰せるものに手が伸びる。 読書をしない人々を見て嘆く読書家が見落と…
2025年2月 芥川賞に関心を持たなくなって久しいが、相も変わらずSNSではこの時期になると、文学周りので「論争」が巻き起こっているようだ。 今回の受賞者のひとりである安堂ホセは、過去に『IRREVERSIBLE DAMAGE』(KADOKAWAが邦訳の刊行を予定していたがト…
2025年1月 年末にインフルエンザを発症し、数日間、床に臥しているといつの間にか年が明けていた。 当たり前のことであるが、元気がない時に本を読むのは難しい。辛いときには最低限のことしかできない。これは即ち、本というものは読まなくても死にはしない…
2024年12月 10月末、自分への30歳の誕生日プレゼントとしてiPadを買った。外で作業するための道具として考えていたのだが、いまのところはそれ以上に、Kindleで漫画を読むのに使っている。だいぶ前にKindle専用端末も買っていたのだが、頁のめくり方などがど…
昨今、主に著名人に対するSNS等インターネット上での誹謗中傷が社会問題として盛んに議論されている。これが由々しき問題であることにはまったくの同意であるが、その一方、しかし——いや、それゆえにというべきかもしれないが——私が最近強く感じるのは、どこ…
2024年12月1日、日曜日。 朝7時に目が覚める。前日までの旅行の疲れはほとんど残っていなかった。昨日はホテルのベッドで、内容はよく憶えていないがなにやらとんでもない悪夢を見て、夜中の3時に一度、意識を覚醒させられた。その後も5時に目が開き、そのせ…
私は小説に限らず、短篇というものが好きだ。漫画についても同様なのだが、長篇と比較したときの難点は、雑誌やWEB漫画サイトに掲載された作品が書籍化されず、読みたいと思ったときには容易には手に入らなくなっている可能性が高いことだ。なんとか雑誌のバ…
三宅香帆『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)は、社会人となってから本を読まなくなってしまったことにショックを受け、3年半後に本を読むために退職、現在は文芸評論家として活動している著者が日本の近代以降の労働史と読書史を並べて…
文学フリマ東京のことについて、急速的な拡大による変化や入場費導入など、さまざまな指摘や批判がなされているようだ。私としては数年前から、スタンスは少し違えど同じようなことをずっと言い続けてきたので、これ以上つけ加えるつもりはない。また、かつ…
ここ1年ほど、スポーツ記事をよく読むようになった。特に『Number』なんかは手持ち無沙汰でウェブの記事を適当に覗いたりするのだが、それほど長いものではないものの、中にはかなりの充実感を覚えるものもある。特定の選手にフォーカスしたものが特に好きで…
10月1日 ここ最近ブログの更新が滞っている。理由はいくつもあるのだが、なによりも今年の初夏頃から始まった、文章に対する反射的な拒絶が最大の要因だ。 仕事では特に問題はないのだが、それ以外の時間に本を読んでいると言葉がまったく頭に入ってこず、だ…
11月11日の文学フリマ東京37に参加することにした。 ギリギリまで今回は出店する気はなかったのだが、開催が土曜日だということもあり、行ってみるのもいいのかなと考え直したのが最近のこと。 とはいえ、募集が2000ブース、先着1600ブースまでは抽選対象外…
初めて阿部共実を知ったのは、おそらく出世作と言えるだろう『ちーちゃんはちょっと足りない』(秋田書店)だった。「心がざわつく」という触れ込みとカバーの女の子の絵柄とのミスマッチが気になって、当時アルバイトしていた本屋で買った。 前半は、「ちょ…
7月20日 思うことがあり、ここしばらく本棚の大整理をしている。 いままでの「この本はもう手放してもいいか」という基準から、「どの本は残しておいてまた読みたいか」という考えで処分している。とにかく本を減らしたく、理想は半分だがさすがに難しそうで…
『アイデア』402号(誠文堂新光社)の特集「小さな本づくりがひらく 独立系出版社の営みと日本の出版流通の未来」を読んだ。 7つの出版社へのインタビューと4つの論考、そして7人の選者によるブックリストと、かなりのボリュームがある。本旨についていろい…
5月21日(日)に開催される第36回文フリ東京に出店します。既刊のほか、新刊ソガイ第8号(テーマ 東京)を販売するので試し読みを公開します。ブースはか-17です。 目次(エッセイ)鈴木相「東京はミラクル★」 (評論)矢馬潤「透明化する本屋―私は本屋が好きな…
日本の出版において豪華本・限定本といえば、長谷川巳之吉の第一書房を初めとして、野田誠三の野田書房、江川正之の江川書房、斎藤昌三の書物展望社など、主には戦前昭和期に隆盛を極めた出版社とその社主の名前が思い浮かぶ。 だが、1969年に設立してから、…
本以外のものも売る「複合型書店」が増え始めたのは、2000年代中盤から2010年代初頭あたりのことだろうか。代官山蔦屋書店がオープンしたのが2011年末とのことで、その辺りからこの複合化の勢いが加速していったようだ。1994年生まれの私が意識的に本を読み…
1月9日 鴻上尚史が書いたという新成人への言葉にあつまる称賛には、いささか気味の悪さを覚えた*1。もちろん感性は人それぞれではあるが、だとしてもここまで称賛される意味は分からない。理由は単純で、別に大した文章ではないからだ。「自分の頭で考えよう…
『イブニング』休刊のニュースには驚いた。たしかに『モーニング』や『アフタヌーン』と比べると最近はあまりヒット作に恵まれていない印象はあるが、それほど漫画好きでもない私ですらよく知っている名前だし、それに版元はあの講談社だ。しかし、それくら…
12月5日 出版のことを少し追わなくなってある程度の時間が経った。 それでもちょこちょこと嫌な話は耳に入ってくるが、良い話については皆無に近い。実際には良い話題もあるにはあるのだろうが、数やインパクトにおいては、やはり悪い話の方に分があるという…