ソガイ

批評と創作を行う永久機関

創作・エッセイ

筆まかせ19

10月1日 ここ最近ブログの更新が滞っている。理由はいくつもあるのだが、なによりも今年の初夏頃から始まった、文章に対する反射的な拒絶が最大の要因だ。 仕事では特に問題はないのだが、それ以外の時間に本を読んでいると言葉がまったく頭に入ってこず、だ…

筆まかせ18

7月20日 思うことがあり、ここしばらく本棚の大整理をしている。 いままでの「この本はもう手放してもいいか」という基準から、「どの本は残しておいてまた読みたいか」という考えで処分している。とにかく本を減らしたく、理想は半分だがさすがに難しそうで…

第36回文フリ東京でソガイ第8号を販売します。(試し読みアリ)

5月21日(日)に開催される第36回文フリ東京に出店します。既刊のほか、新刊ソガイ第8号(テーマ 東京)を販売するので試し読みを公開します。ブースはか-17です。 目次(エッセイ)鈴木相「東京はミラクル★」 (評論)矢馬潤「透明化する本屋―私は本屋が好きな…

「本」への信頼——書評『本屋で待つ』

本以外のものも売る「複合型書店」が増え始めたのは、2000年代中盤から2010年代初頭あたりのことだろうか。代官山蔦屋書店がオープンしたのが2011年末とのことで、その辺りからこの複合化の勢いが加速していったようだ。1994年生まれの私が意識的に本を読み…

筆まかせ17

1月9日 鴻上尚史が書いたという新成人への言葉にあつまる称賛には、いささか気味の悪さを覚えた*1。もちろん感性は人それぞれではあるが、だとしてもここまで称賛される意味は分からない。理由は単純で、別に大した文章ではないからだ。「自分の頭で考えよう…

筆まかせ16

12月5日 出版のことを少し追わなくなってある程度の時間が経った。 それでもちょこちょこと嫌な話は耳に入ってくるが、良い話については皆無に近い。実際には良い話題もあるにはあるのだろうが、数やインパクトにおいては、やはり悪い話の方に分があるという…

筆まかせ15

11月9日 最近、仕事から帰ったあともなかなか本を読んだり、ものを書いたりできていない。その一番の原因は、部屋にものが、主に本が溢れていていちいちそれを動かしてからではないと次の行動に移れない億劫さにあるのではないか。 私はもう1年以上も、本を…

筆まかせ14

8月24日 最近、別にそんなにたくさん本を読もうとしなくてもいいのではないか、と思うようになった。 これは、「本なんて読まなくてもいい」ということではもちろんなくて、本を読むことを目的として本を読むのはどうなんだろう、という疑問によるものだ。 …

筆まかせ13(「こそ」について)

6月3日 「〜こそ」という言葉、とくに言論の界隈で使われているそれが、少し前から妙に気になっていた。 疫病禍、災害、戦争、その他諸々の事件……いま起きている様々な事象から、「今こそ○○を知らなければならない」「こんな時代だからこそ、○○を読まねばな…

「再会」(小説)

ある日突然、高田馬場のロータリーが閉鎖された。それがすべての始まりだった。 彼はレインボーファルトの上に置いてある飲みかけのストロングゼロの缶を拾うと、器用に中身をいろはすのペットボトルの中へ注ぐ。不器用な僕は、同じような作業をするといつも…

「本屋」の包容力

「本」というものが指す範囲は広い。 とりわけ日本では本と雑誌の境界すらかなり曖昧だ。漫画雑誌を求めて「本屋」に行くなんてことはありふれている。 そして、読んで字の如く「書を読む」という「読書」もまた、本を読むことから雑誌、あるいは漫画や新聞…

逡巡すること

「逡巡」という言葉が好きだ。 思い悩み、ためらい、尻込みすること。語釈だけみるとネガティブなイメージの言葉だが、しかし人生とはこのような逡巡の連続ではないか。私が書物に求めているのは答えそのものよりも、むしろその答えに辿り着こうとするための…

筆まかせ11(あっという間に過ぎ去ってしまった「希望と喜び」の議論と、潮流からの訣別)

7月24日 実は、直木賞の選評を巡ってのごたごたについて思うことがあったので、それなりの分量を使って記事を書いていた、いやほぼ書き終わっていた。だが、いま公開するのはやめることにした。 SNS、ことTwitterは文字数のこともあってか、どうにもみな、簡…

労働者であるための「表現」——川崎昌平『労働者のための漫画の描き方教室』

労働というものを批判する言葉は、軽口のようなものから理論的なものに至るまで無数に見られる。正直なことを言えば、私だって働かなくてもいいものなら働きたくはない。労働の必要がなければ自由な時間が取れてもっといろいろなことができるのにな、と思う…

1年間の校閲の仕事から考える生活の知恵

出版社の校閲部で働き始めてから1年ちょっとが経った。どこかで話したことがあったような気がしないでもないのだが、私はこれでもいちおう日本エディタースクールが主催する校正技能検定上級に合格していて、人よりは多少誤字脱字に気付きやすい方なのかもし…

筆まかせ7

2021年1月13日 久しぶりに片頭痛に見舞われた。 私が片頭痛を発症したのはたしか高校2年生のときだった。大学受験に向けて勉強をしているなか、目を開けているのもつらい頭痛に、月に2、3回も襲われるのはきつかった覚えがある。高校2、3年生のとき、1年で10…

筆まかせ6

2021年1月4日 これまで何度も年をまたいできたわけなのだが、記憶にあるなかで今回が最も、年が変わったという意識が薄い。12月30日が12月31日になるように、12月31日から1月1日になるのを感じていた。 それはこの日に至るまで同じで、例年とは異なり、2日の…

「ドナルド・エヴァンズ展」鑑賞記

横田茂ギャラリーで開催中のドナルド・エヴァンズ展(2020年10月26日〜11月13日)に行ってきた。ゆりかもめ竹芝駅から徒歩3分という、アクセスも申し分のない立地だ。もっとも、私は盛大に道に迷ったせいで30分近く歩き回る羽目になったのだが。 ドナルド・…

筆まかせ5

最近、少し記事の更新が滞っている。別のところに寄稿する文章を書いていて、そのための調べ物もあったりしたことが主な要因なのだが、少し疲労があって、さらに文章を書くだけの余裕がなかったのも事実だ。ただ、それでも本自体は読んでいて、特に池内了『…

体の一部としての本—「本づくり学校修了展」製本ワークショップ体験記

8/22の土曜日。休日にもかかわらず、明らかにいつもより人通りの少ない浅草の町を歩き、浅草Book&Designにて8/22〜24に開催されている「本づくり学校修了展」、そこで行われている製本ワークショップに参加してきた。(http://misuzudo-b.com/news/291/ 2020…

ブックオフについて

地元に初めてブックオフができたのは、たしか小学校中学年くらいのときだったと記憶している。そこはもともとケンタッキーフライドチキンだったような記憶がかすかに残ってもいるが、母親に聞くと、そのテナントは不吉な場所だったらしく、かつて火事があっ…

筆まかせ4

6/13 ここはいちおう「書評・創作ブログ」と銘打っているのだが、「創作」はもともとそれほど多くなかったのでまだしも、最近、まともに「書評」記事をあげていないことが否めない。先月後半あたりから本格的に仕事が始まり、ここしばらくは、4月1日ぶりとな…

誤字を肯定する「内輪の空気」

この前の論考で、「いま同人誌を造るということ」について、本というものに着目し、藤森善貢や小尾俊人を横に置きながら考えた。そこで私は、広い意味での質にこだわった。ものとして残る本は、過去・現在・未来を繫ぐものであり、形として残る本というもの…

「時代遅れ」と言って切り捨てていては……

突然だが、私はどちらかと言えば機械音痴である。いや、けっこう、と言ったほうが正しいかもしれない。たとえば小学生のころ、授業の一環で、各グループに分かれて短い映像を撮ったことがある。そのとき、私はカメラに写らないところでラジカセを使って、BGM…

たまにはテレビドラマについてでも

もうテレビドラマどころか、テレビ番組自体を真剣に観なくなって久しい。また、このドラマが好き、と熱く語れる作品もぱっとは出てこないような人間なのだが、折に触れて思い出す、テレビドラマの場面がある。2001年にフジテレビの「月9」枠で放送された、木…

禍のなかで—校正、安住紳一郎、シスター・クレア—

一時期、あまり本が読めなかった。 大学院の卒業式は早い段階で中止が決まり、出不精な自分にしては珍しく一週間で二回の飲み会の予定が入っていたが、結局どちらにも参加できなかった。妹がひとさまの子どもを扱う仕事をしていることもあって、私は早い段階…

習作としての読書ノート『シュレーディンガーの猫を追って』第13回

www.sogai.net 「10 天狼星(シリウス)の高みから」 わかっていたことだが、なかなか話が進まないので、だんだんとなにを書けば良いのか、わからなくなってくる。もともと私は綿密なプロットを立てて文章を書くタイプではないのだが、ことこの読書ノートに…

筆まかせ 3

3/12 最近はあまり小説を読む気にはならない。まあそういうときもあるだろう。いまは冊子の作成に集中したい。 3/13 ちょっとやってみたいな、と思うことがある。宮武外骨『一円本流行の害毒と其裏面談』の複製だ。「(普及目的)有断許複製」と奥付に示され…

筆まかせ 2

3/3 近頃多発している、私側にはまったく落ち度もなく、そして避けようのない小さなトラブルに心を砕いていたせいか、とにかく精神状態が悪かった。最近でこそ、あまり気にせずに過ごすことができているが、私は一時期、とりわけ学部生時代には、ときに電車…

筆まかせ 1

2/27 なにか新しいことを始めたい、と書いた。そこには具体的に書かなかったけれども、その候補のひとつとして、古井由吉の作品をこつこつ読み進めてみる、というのがあった。古井の作品は『杳子・妻隠』『雪の下の蟹・男たちの円居』くらいしか読めておらず…