ソガイ

批評と創作を行う永久機関

習作としての読書ノート『シュレーディンガーの猫を追って』第11回

www.sogai.net 第11回 先日、友人のお宅にお邪魔した。その友人は2匹の猫を飼っていて、そのうちの1匹が黒猫だった。 人懐っこいキジトラの子と比べるとなかなかこちらに顔を出してこない黒猫の子に近寄る。すると、すすっとからだをよじって、ベッドの…

書評 劉慈欣『三体』 人類を滅ぼすという思想

久しぶりに小説のスケールの大きさ、作者の構想力に驚かされた。『三体』は地球往事(あるいは三体)三部作の第一作目であり、このシリーズは現地中国ではベストセラーSFの一つだという。大まかな内容としては人類が地球外生命体である三体*1人と接触し、彼…

習作としての読書ノート『シュレーディンガーの猫を追って』第10回

www.sogai.net 第10回 先日、「すみだ北斎美術館」に行ってきた。行くのを決めたのは前日の夜だった。その理由というのもまあ不純なものである。 私は半年ほど前からたまにダーツをやっている。これまでは通販で買った初心者セットをなんとなく使っていた…

習作としての読書ノート『シュレーディンガーの猫を追って』第9回

www.sogai.net 第9回 芸能人やスポーツ選手の生い立ちを、再現ドラマを交えながら描く。そんなバラエティ番組を観たことがあるだろうか。複雑な家庭環境、苦しい生活、恩師との出会い、仲間との再会、そしてつかみ取る成功……。そのとき、司会や雛壇の芸能人…

習作としての読書ノート『シュレーディンガーの猫を追って』第8回

www.sogai.net 第8回 書評のようなものをはじめてから2年くらい経つが、ときどき思うのだ。もうこれ、内容をそのまま差し出すだけでいいんじゃないか、と。もちろん著作権的には問題があるのだが、しかし、本音を言えば、やっぱり文章のどこかを切り取ると…

習作としての読書ノート『シュレーディンガーの猫を追って』第7回

www.sogai.net 第7回 第5章「眠れない夜」。 「なぜなぜ期」という言葉がある。2、3歳くらいの子どもが、どんな物事にも「なんで?」「どうして?」と質問ぜめしてくる時期のことだ。それは些細なものから、ときに壮大なものだったり、哲学的なものだっ…

習作としての読書ノート『シュレーディンガーの猫を追って』第6回

www.sogai.net 第6回 前回、引用についていま思っていることを少し書いた。そういった理由で、とくにこの文章において、私は可能な限り長めの引用をしてきた。 なので、ここでは逆に、断片的な引用を並べてみる。逆のことをやってみる。このことが思いのほ…

習作としての読書ノート『シュレーディンガーの猫を追って』第5回

www.sogai.net 第5回 第4章「中国影絵」。そもそも中国影絵ってなんなんだ、とも思うけれど、ひとまず先に進む。ともかく、「わたし」のもとに一匹の猫がやってきたのだ。 「わたし」は、その猫によって思考のあり方が変わってくる。「何でもないようなこ…

習作としての読書ノート『シュレーディンガーの猫を追って』第4回

www.sogai.net 第4回 本題に入るまえに、ちょっとした余談。 昨日、仕事のあと書店に寄って店内を歩き回っていた。ひとつ、綿野恵太『「差別はいけない」とみんないうけれど。』(平凡社)が気になっていて、これは確実に欲しかった。売れ行きが好調だと聞…

習作としての読書ノート『シュレーディンガーの猫を追って』第3回

www.sogai.net 第3回 第二章「すべての猫が灰色に見えるとき」。 日が沈み、雲が月と星々を隠していた。雲は空を覆い尽くし、残された光を奪ってしまう。庭の片隅に、それは姿を現した。リラのすぐそば、ほとんど乾き切った大きな金雀児の近くだ。それは壁…

習作としての読書ノート 『シュレーディンガーの猫を追って』第2回

www.sogai.net 第2回 第一部に入っていく。第一章「むかしむかし、二度あったこと」。 むかしむかし。子どものころを思い出す。おとぎ話のはじまりはいつもこれだった。まさか、この小説は童話になっていくのだろうか。とにかく読み進めよう。 シュレーディ…

習作としての読書ノート 『シュレーディンガーの猫を追って』第1回

最近、やってみたいこととやらねばならないことが重なり、ちょっとどっちつかずになっているような気がする。だから、腰を据えてなにかひとつのことを続けてみようと思った。そこで、ひとつの作品を少しずつ読んでいき、思ったことや気づいたこと、連想した…

きっとだれかには届くと思っているから僕は書いている。

小説家になりたい。そう思い立ったのは、ライトノベルばかりを貪るように読んでいた高校2年生くらいの頃だった。おもしろい物語に触れていると、やっぱり、自分でも書いてみたいと思ってしまうものだ。 しかし、自分には圧倒的に読書量が不足していた。楽し…

中村光夫の可能性—『虚実』あとがきから

中村光夫といえば、『風俗小説論』における私小説批判が有名だろう。もちろん、彼の仕事はこれだけではないのだが、とはいえ、もはや『風俗小説論』こそが彼の代名詞のようになってしまっている。そんな風潮を責めているわけではない。事実、私にとってもだ…

積んである本について話してみる

日々本を積んでいて、一冊読み終わるまでに三冊は手持ちの本が増えているような有様、積み本がなくなることは一生ないのではないか、と思わないでもない私であるが、ここで一度、自分がどのような本を積んでいるのか、確認してみるのもいいだろう。 ところで…

即興小説(テーマ「虫」)2017年5月11日(?) 於:サイゼリヤ某店

ケンジくんとトモカちゃん 「ケンくん。今日はあっちに遊びにいかないの?」 夏休みになって毎日のようにケンジの部屋に入り浸っているトモカが、今日もスケッチブックを床に広げて十二色のクレヨンでなにかを一生懸命に描きながら、ベッドに横になって虫の…

「ナイン・ボウリング」自作解説?

www.sogai.net 三年前、校舎最上階の四階の音楽室にはふたりの卒業生がいた。そのうちのひとりである少女は、窓に背中を預け、顔だけを外に向けている。眼下には、緑、赤のパステルカラーの校庭。手には卒業証書が丸め込まれた黒い筒、腕には花束を抱えた卒…

「ナイン・ボウリング」7(宵野過去作)

www.sogai.net 思えば、あの四泊五日の旅行はたった半年前のことなのだった。それから、ふたりの関係はどのように変わっただろうか。いや、見かけとしてはそこまでの変化はない。観光らしい観光はしなかったあの旅行自体が、ほとんど日常の延長であったから…

「ナイン・ボウリング」6(宵野過去作)

www.sogai.net 小さい数字の球からポケットに入れていくのが面倒になり、とにかく台に乗っている球を弾き飛ばすことだけに熱中する姉は、台に顔を近づけ、手玉を挟んで、いま、もっとも当てやすい九番をまっすぐにらみ、ぎこちない動きでキューを前後させな…

「ナイン・ボウリング」5(宵野過去作)

www.sogai.net 三ゲーム目も終盤になると、さすがに疲労の色が隠せない。ある程度は指にかかった、腕の力と遠心力とが伝達した球を投げられるようになっていたはずだったのだが、いまや、振りかぶって振り子の最下点までいくと、そこで球はがたん、とほとん…

散歩の視線—小山清「犬の生活」

ひとは、どこを見て過ごしているのだろうか。 数年前、とは言っても、もう零よりは十に近い年数が経っているが、精神に不調をきたして外に出られなくなったときのリハビリとしてはじめた散歩が癖になって、意味もなく一駅とか二駅とか、それくらいの距離を歩…

「ナイン・ボウリング」4(宵野過去作)

www.sogai.net そんな昔の話、よく覚えているね、笠松くん。空になったジョッキを手持ち無沙汰にもてあそぶ裕里は、少なくとも表面上はいつもと変わらない調子で言った。幸人は枝豆をつまみながら、まさかこんな話をすることになるとはなあ、とこぼした。こ…

「ナイン・ボウリング」3(宵野過去作)

www.sogai.net 彼女の知識欲に驚かされ、そして振り回された経験は、一度や二度では済まない。鞄のなかは常にジャンルも内容もばらばらななんらかの書物がつまっているし、運動はそれほど得意ではないのに、突然、野球をやる、とバッティングセンターで一五…

「ナイン・ボウリング」2(宵野過去作)

www.sogai.net 姉が例の宣言をした日の深夜。自室で眠っていた幸人は、右耳にささやかれる自分の名前で起こされた。姉さん? 目を開ける前に反射的にその声の主を呼ぶと、暗闇のなかから姉の顔の輪郭が浮かび上がってきた。姉は見つめるだけでなにもいわない…

「ナイン・ボウリング」1(宵野過去作)

三年前、校舎最上階の四階の音楽室にはふたりの卒業生がいた。そのうちのひとりである少女は、窓に背中を預け、顔だけを外に向けている。眼下には、緑、赤のパステルカラーの校庭。手には卒業証書が丸め込まれた黒い筒、腕には花束を抱えた卒業生、それを見…

「優しい海」3(宵野過去作)

www.sogai.net 量は変わらないはずなのに、荷物を詰め込むのに難儀したスーツケースを引きずって、昼下がりの道を歩く。あの日、海に飛び込んだときと同じ格好をした彼女は、左耳に波の音を聴きながら、少女の生い立ちを考えようとして、やめた。たとえばい…

「優しい海」2(宵野過去作)

www.sogai.net そこに、やはり少女はまったく同じ場所、まったく同じ格好で座っていた。 「久しぶりね」 顔を向けた少女は、相変わらずの気だるい表情で、夕日の光に目を細めている。 「今日はちょっと、雲、かかっちゃってる」 「でも、これはこれで、きれ…

「優しい海」1(宵野過去作)

優しい海 飛び込んだ海のぬるさは、彼女の心臓を止めてはくれなかった。穏やかな波に揺られながら、口を開けて、降りそそぐ太陽の光を眺めていた。あきれるくらいに鮮やかな水色の空を、活気に満ちあふれた入道雲が縁取る。いままでの人生で最も美しい景色を…

「空気」に抵抗する言葉を求めてー宇佐見英治『言葉の木蔭 詩から、詩へ』

この本に出会うまで、宇佐見英治の名前を知らなかった。宇佐見英治著、堀江敏幸編『言葉の木蔭 詩から、詩へ』(港の人、2018年3月)。 著者略歴によると宇佐見英治は、「1918年、大阪に生まれる。詩人、文筆家。『同時代』同人として活躍、美術評論や翻訳も…

第28回文学フリマ東京に出店します(試し読みあり)

前回に引き続き、文フリ東京に出店します。 bunfree.net c.bunfree.net ブース番号はカ-13、ジャンルは文芸批評になります。開始時間の十一時から終了の一七時までブースを開いている予定なのでお好きな時にお越しください。 ソガイの出品一覧 ブースで販売…