2018-01-01から1年間の記事一覧
明治期の文章を読んでいると、いわゆる横文字の単語がそのままの音で使われていたり、漢字の熟語のルビとして振られていたりして、いまの時代の読者からすると、少し変な感じがすることがある。 有名な例だと、夏目漱石の小説にしばしば出てくる「停車場」と…
中村文則の『掏摸』を近所の本屋で買って読んだ。 著者の名前やその著作『教団X』などは知っていた。しかし、彼の著書を読んだのはこれが初めてであった。なぜこの作品を最初に選んだのかと言えば、著者が友人相手にこの小説を書くために掏摸の練習をしたと…
いまは、多くの大学生が卒業論文に苦しんでいる時期かと思われる。場所やゼミにもよるだろうが、まあ少なくとも二万字を越えるような文章を書く機会、というものは、そうあるものではない。 図書館に通い詰めて参考文献を読みあさったり、あるいは専攻分野に…
読書という行為は体験であり、すなわちそれは身体性が伴うものだと思っている。 それは紙の本でも電子書籍でもいいのだが、どちらにしても、読書のなかには頁をめくる手の動き、文字を追う目の動き、手に掛かってくる重みがあって、それは読書という行為から…
私が本格的に読書を生活のなかに入れるようになったのは、せいぜい五、六年ほど前のことでしかない。 まあ当たり前のことと思われるが、自分の好みを知るためには、自分が好まないものも知っていなければならない、と私は思っている。そして、ひとりの人間な…
ジャンプが創刊50周年を記念して一部アニメを無料公開している。そこで偶然、この動画を目にした。 www.youtube.com こち亀、第204話 「視聴率を盗んだ男」である。 タイトルを見た瞬間に気づいた。これって『太陽を盗んだ男』が元ネタなんじゃないか? と。…
前回に引き続き、文フリ東京に出店します。 c.bunfree.net ブース番号はキ-12、隣接ブースは早稲田大学現代文学会さんとArts&Books コレコネ&ABYBさんになります。開始時間の十一時から終了の一七時までブースを開いている予定なのでお好きな時にお越しくだ…
私はこれまで、歌詞の考察といったものをしたことがほとんどない。いまだ詩をちゃんと読めない人間、ということもあり、歌詞考察というものはどうにも私の領分にはないのではないか、と逃げてきたところもある。 ではなぜ、いまから『あいくるしい』という、…
正直なところ、柴崎友香の作品に苦手意識を持っていた時期があった。それは、芥川賞受賞作『春の庭』(文春文庫)をすぐさま購入し、読んだときにも拭えなかった。(思えば、なぜなかば読まず嫌いになっていた作家の作品を迷わず購入したのか、いまになって…
語り手 宵野夏雪 大学で文学を専攻。正確に言うと学部名称は文学部ではない。聞き手、全体構成 雲葉零 大学での専攻は経済学。 小説家になりたい。そう思った人は大学で文学を学ぶべきなのでしょうか。 以下、文学を専攻した宵野へのインタビュー形式でその…
いつごろからなのかははっきりと覚えていないが、都心ではコンビニや飲食チェーンで外国人店員を多く見かけるようになってきた。日本人よりも外国人のほうが多いのではないかとすら感じる。そこまでではないにせよ、都会とは程遠い私の田舎でも外国人店員を…
読書の醍醐味のひとつに「再読」があることは、論をまたない。とはいえ、折に触れて何度も何度も紐解きたくなるような作品なんてものは、そうそう出会えるものではない。一般的に評価が高くても、それは、その作品が自分にとって何度も読みたくなるものにな…
インターネットやSNS等で、だれでもどこでも、世界中の情報を得ることができるような社会になったが故に、かえって、「当事者性」といったものが持つ力が、もはや特権的とでも言えるくらいに大きくなっているように感じられる。 文芸の世界でも、これはホ…
野﨑まど作『know』(2013年 早川書房)は、人造の脳葉<電子葉>を人間の脳に移植することが義務化された、2081年の京都が舞台の作品である。 常に周囲の情報をモニタリングしている「情報素子」を散布された≪情報材≫がいたるところに設置されており、人間…
テロリズム、あるいは個人かせいぜい数人の集団による無差別殺人は現代を特徴づける一つのキーワードかもしれない。これらの事象は国内に限らなければ、それこそ毎日のように発生し続けている。それらの原因は政治、経済、宗教、民族など様々な要素に分解さ…
新装版が1冊と文庫が2冊、となぜか3冊持っている小説がある。(2冊目の文庫はちょっとした行き違いによるものだが。)ポール・ギャリコ『雪のひとひら』(矢川澄子訳)である。 題名通り、「雪のひとひら」と作品内で呼ばれる一片の雪の結晶を主人公とし…
どこを歩いていても書店を見つけては吸い込まれ、一時期は書店に勤めていた人間として感じるのは、相変わらず「速読」本は、ひとつのコーナーを作れるほどには店頭に並んでいる、ということだ。 なにを隠そう、私自身、高校生の頃だったと思うが、何冊かの速…
芥川賞・直木賞の季節が、またやってきた。 正直なことを言うと、芥川賞・直木賞の候補作が発表されても、受賞作決定までにそのほとんどの作品を読むことができていない。(今回は芥川賞候補については3作品読んだ。無難、と言われるかもしれないが一押しは…
2018年5月6日に開催された第26回文フリ東京にソガイとして参加した。前回の文フリではフリーペーパーしか配布しなかったが、今回は定価500円で『ソガイvol.2 物語と労働』を販売した。今更だが、わざわざソガイのブースを訪れてくれた皆様に感謝。 50部刷っ…
いちおう私はこういったブログを運営しているわけだが、正直な話、文学研究や批評の類の文章を読んでいても、よくわからないことが多い。それは、自分の頭が追いついていないせいだ、と思って後ろめたさのようなものを感じていた。いや、その意識自体はいま…
最近少し更新が滞っていましたので、リハビリではないけれども、軽めの感想記事を書いていきたいと思います。 『BAMBOO BLADE』(以下『バンブレ』)はやや古いかもしれないが、アニメ化もしたことがありますし、けっこう有名な作品なのではないでしょうか。…
投げ銭 ソガイの活動に協力して頂ける方は、是非アマゾンギフト券を以下のアマゾンのサイトから送信ください。 宛先は以下のとおりです。 sogaidenshi@gmail.com 冊子発行の赤字穴埋め等に使われます。金額は15円から可能です。また希望する筆者名をメッセー…
文庫で三〇〇ページ程度のこの本には短編、エッセーが数多く収録されている。よって、一つ一つの文量は大したものではない。特に短い作品など二ページほどしかない。ちょっとした空き時間に、気楽に読み進められる本である。 「怠惰の美徳」*1という表題作か…
知られざる北朝鮮文学 第二回の舞台は朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮と呼称)である。北朝鮮に対する日本人の一般的な印象は、著しく悪いだろう。拉致問題、核ミサイル開発問題などを対外的に抱え、そのうえ内部では抑圧的な政治体制を敷いてるのだから…
ストーリーテラーというのは、こういうものを生み出すことのできるひとのことを言うのだろうな、と思ったものだった。 このマンガがすごい!2013(オンナ編)の第2位にもランクインしたこの作品は、表題作の『式の前日』をはじめとした6編の短編からな…
表紙と裏表紙 表紙に書いてあるようにソガイ第二号のテーマは「物語と労働」です。 紙版はB5版で80ページ、定価は500円です。 電子版もあります 目次と概要(クリックすると該当箇所の一部が読めます) 論考 次元を越えた「瓜二つ」―― 磯﨑憲一郎『赤の他人…
福沢諭吉、と言えば、「学問のすゝめ」などの啓蒙書の方で有名だろう。そんな福沢の、これは小説といっていいのか分からない、おそらく寓話とでも言うべき掌編、「かたわ娘」を読んでみよう。 題名が題名なだけに、初回で取り上げるのに多少悩まされた。念の…
連載 世界を旅する文学とは この連載では旅をするように世界各国の文学作品を読んでいく。世界中の小説を読んでみたい。英、米、独、仏、露文学などの比較的日本でも読みやすい文学だけでなく。漠然と以前からこんな感情を抱いていたのが今回の企画のきっか…
仮名垣魯文。名前を聞いたことがあるひとは、それなりにいるだろう。日本史を習っていれば、いちおう出てくる人物ではある。『安愚楽鍋』は、そんな彼の代表作、と言ってもいいだろう。ちなみに「安愚楽鍋」とは、気軽に食べられる牛鍋のことを言うらしい。…
この世には、数え切れないほどの名作がある。小説好きなのに、それも読んでいないのか、と言われることも少なくないが、そんなことは物理的に不可能だ。 かといって、気になったものだけを読んでいればいいか、となると、それも少し違う気がする。そもそも、…