語り手 宵野夏雪 大学で文学を専攻。正確に言うと学部名称は文学部ではない。
聞き手、全体構成 雲葉零 大学での専攻は経済学。
小説家になりたい。そう思った人は大学で文学を学ぶべきなのでしょうか。
以下、文学を専攻した宵野へのインタビュー形式でその疑問を紐解いて行きたいと思います*1。
雲 そもそもどうして大学で文学を学ぼうと思ったの?
宵 僕は学部というものに対する意識は強いようで、ほら、文系だとあるじゃないですか。ひとつの大学を複数学部受ける、たとえば、法学部、商学部、文学部といったような。あれが分からなかったんですよね。で、大学に行くならちゃんと学びたいものを学びたい、と思ってはいたな。
当時、ライトノベルを中心に本を読むことが多かったのだが、いろいろな作品を読んでいくうちに、自分でも書いてみたい、との思いが強くなり、だったら文学部だろう、と。
雲 文学を学ぶことのデメリットは考えなかったの?
宵 就職に不利ことは知っていたが、就職のために、ということで興味が無いことを四年間やることは考えられなかった。
雲 どんな授業が多かったのか?
宵 最初の授業で小説の読み方を教わり、続く演習ではかなり多くの作品を読まされた。基礎体力をつけるにはよかったのかな。具体的には思想を使って読解することが多かったかな。
もっとも、そういった読み方から離れよう、と思うところもあってソガイのようなことを始めたわけだが、それも知っているのといないのでは違うだろうし、いまに役立っているのかな。小説を書く講義もあった。まあ、細かい技術のようなものは教えられなかったが、これは致し方なし。
あと、語学以外だと暗記したことを答えさせるようなテストがほとんどない。だいたいレポート提出か、前もってテーマが提示されて教室でレポートを書くことが多い。ひとによるんだろうけど、自分はそっちの方が合っていた。
ひとつ気を付けなきゃな、と思ったのは、一、二年生の頃はカリスマ性のある教授に心酔しちゃういがちなんだよね。自分だってそうだった。だけど、自分の場合は三年生ぐらいになると授業のやり方に疑問を覚えることもあって、自分の考えができ始める。といいますか、これはどんな分野でもそうだとは思うが、侮る意味ではなく、教授の言うことは、あくまでこれは、ひとりの人間の考え方だ、くらいのスタンスで受けた方がいいですよ。ましてやこの分野、答えがあってないような学問分野なんで。どんな権威のある教授だって、正解ではない。
雲 経済系はだいたい教えることが決まってるので、そこまで教授の色が強いことは少ない印象があるなあ。他の学部と比べると、どんな傾向がある?
宵 自分の周りだけかもしれないけれど、就職の意識が希薄だったね。インターンも行っている人が少ない。*2もちろん自分も行っていない。TOEICを受けよう、なんて思ったこともない。
雲 確かに自分の学部と比べると、そんなイメージが有るね。
宵 この前、中学高校時代の友人に久しぶりに会ったんだよ。僕はけっこう理系クラスに友人が多くて、そのときも理系3人と遊んだんだよね。で、まあ就職の話にもなったんだけど、早期選考だったり○○インターンだったり、全然知らない言葉が出てくるし、名前が挙がる企業が、誰でも知っているような大企業ばかりで。別の世界の話を聞いているみたいだった。
文系でも、耳に入ってくる範囲だけど、やっぱり法学部とか政治経済学部とか、まあ努力の差もあるんだろうけど、やっぱり違うよね。
話を戻すと、発表形式の講義は多いのかな。グループもあるけど、一人の発表が。四年で、少なく見積もっても十回以上は発表したと思う。まあ、グループ発表は自分から避けていたところもあるのだけど……
雲 それは多いね。自分はゼミを除けば、三回ぐらいしかないと思うから。
宵 本を読んで内容をまとめて、自分なりの読み方を発表する、とか。あとは書評を書いてきたり、とか。さっきも言ったけど、小説を書いてくる授業もあった。
雲 一体どうやって採点してるんだろうね。
宵 ぶっちゃけ、正確にはできないんじゃないかな。だからか、出席点がでかい。ちゃんと出席してレポートを出せば、単位は落としにくい。それなのに、落とす人が多いんだよ。出席できないからね。僕は、どうしても内容に興味が持てなかったひとつの講義以外、単位を落としたことはないから、あのなかでは、わりと真面目な学生だったのかな。
あ、下世話な話だけど、他の学部に比べると女子が多いね。でも男子の肩身は別に狭くない。まあ、僕が鈍感なだけだったのかもしれないけれど。正直、気にしたことないもん。
雲 自分は経済系なので男子が多かったから、文学部に行くとそれは結構感じたね。
宵 でも出会いがあるかは別問題。文学部には文学少女がいる、と思う人もいるかもしれないけど、そんなことはないんじゃないかな。まあ僕の交友関係の狭さ故かもしれないけれど。
雲 そもそも文学少女がいると思う人が、いないでしょ(笑)
宵 それもそうか(笑)
(宵野が高校時代に本編を全部読破したという『文学少女』シリーズ)
雲 イメージとギャップの違いはあった?
宵 本を読んでいる人は多いが、誰もが本を読んでいるわけではない。芥川賞・直木賞を、皆が皆読んでいるわけではない。僕なんかから見れば、まあまあウェイウェイしてるよ(笑)それでも、世間一般から見れば本を読んでいるひとは多いのかも。
雲 卒業するまでになにか変わった?
宵 本がめちゃくちゃ増えたけど、自分はあんまり変わってないんじゃないかな。だから、僕は居心地が良く感じていたのかもしれない。
あえて言うなら、一般的なものの見方を疑いたくなる。レポートを書く機会が多いので、自分で物事を考える癖はつくのかもしれない。答えがないのが当たり前の世界だから。答えを求めよう、とも思わない。むしろ、すぐに答えを出そうとする自分がいると、いや、ちょっと待てよ、となる。
雲 文学を学んで良かったところと悪かったところを教えてください。
宵 良かったことは多様な作品を知れること。学ぶ範囲もひろいので、自由に四年間を過ごせる。あまり就職の話が出ないのも、世間的にはどうなのかは分からないけれど、僕にはよかった。悪かったことは浮世離れしているところと、こういってはなんだが、あまり良くない選民思想があるところ。
雲 浮世離れしているのは分かるけど、選民思想があるのはよく分からないな。例えば?
宵 浮世離れしていることにアイデンティティを持っている弊害、とでも言えばいいのかな……。分かりやすい例では、授業で学んだ思想をすぐに使って、ベストセラー小説を「理論的」に批判するとか。括弧付きの「理論的」だから、正確な批評になっているのかどうかは疑問。これには自戒の意味を込めている。手っ取り早く頭良い気分にひたれちゃうんだよね。で、これはけっこう快感なんだよ。でも、これはあんまり良くないと思うようになって、いまはその態度からいかに距離を置くか、ということを考えている。
雲 僕達の大学で文学を学んでプロデビューしてる人はどれぐらいいるのかな*3。
宵 デビューにもいろいろな形はあるが、若いうちだったら一学年で一人二人、ぐらいじゃないかな。いや、知らないだけでもっといるのかな? まあ、急いでデビューする必要もないんだけどね。在学中にデビューとか、たしかに憧れるけどね。
雲 文学部に行っても皆小説家や評論家になれるわけじゃないからね。だったら宵野だってこんなところでブログを書いてないはずだし(笑)
宵 おっしゃるとおり。まあ、いまはけっこう楽しんでいるけどね。
雲 じゃあ最後に一言。
宵 なんだかんだ入ってよかったと思うよ。ただ、安易には他人に勧められない。やっぱり就職に弱いので。*4
雲 結局最後もそこですか.......。