ソガイ

批評と創作を行う永久機関

文学-海外文学

男性作家/女性作家棚—エドゥアルド・ガレアーノ『日々の子どもたち——あるいは366篇の世界史』から

BOOTH以外の販路も開拓していく、と宣言してからだいぶ時間が経ってしまったが、ようやく1軒、書店に自分たちが作った本を置いてもらうことになった。 地元の小さな書店、向島の「書肆スーベニア」さん、こちらに「ソガイvol.5」を3冊置いてもらった。文学フ…

習作としての読書ノート『シュレーディンガーの猫を追って』第15回

www.sogai.net 第15回 当初の予定では、そろそろ終わっていてもおかしくはなかったのだ。それなのに、まだ半分もいっていない。もちろん、これは私の怠惰というほかないのだが、ペースが落ちていること、そしてモチベーションがいまいち上がらないことには、…

習作としての読書ノート『シュレーディンガーの猫を追って』第14回

www.sogai.net ようやく100頁を越えた。ところが、問題はすぐに訪れた。この次の「11 猫たちの日々」と「12 シュレーディンガーと呼んでいただきたい」、正直、ちょっと書くことが思いつかない。それでも何かしらは書かなくてはならない。自信はないが、頑張…

習作としての読書ノート『シュレーディンガーの猫を追って』第13回

www.sogai.net 「10 天狼星(シリウス)の高みから」 わかっていたことだが、なかなか話が進まないので、だんだんとなにを書けば良いのか、わからなくなってくる。もともと私は綿密なプロットを立てて文章を書くタイプではないのだが、ことこの読書ノートに…

習作としての読書ノート『シュレーディンガーの猫を追って』第12回

www.sogai.net 第12回 だいぶ時間が空いてしまった。この間にはいろいろあって、他の文章を読んで論文を書いたり、それとは関係のない文章を書いたり、そもそも雑事に追われて、あまり本を読めない時期があったりもした。世の中でも様々な出来事が起きて、ま…

死者とともに生きる—「100分de名著」大江健三郎『燃えあがる緑の木』を観ながら思ったこと

初めて、ちゃんと腰を据えて「100分de名著」を観ている。2019年9月は大江健三郎の『燃えあがる緑の木』を取りあげている。大江健三郎は、実のところすこし苦手で、『死者の奢り・飼育』といった短篇はまだしも、『万延元年のフットボール』や『懐かしい年へ…

習作としての読書ノート『シュレーディンガーの猫を追って』第11回

www.sogai.net 第11回 先日、友人のお宅にお邪魔した。その友人は2匹の猫を飼っていて、そのうちの1匹が黒猫だった。 人懐っこいキジトラの子と比べるとなかなかこちらに顔を出してこない黒猫の子に近寄る。すると、すすっとからだをよじって、ベッドの…

習作としての読書ノート『シュレーディンガーの猫を追って』第10回

www.sogai.net 第10回 先日、「すみだ北斎美術館」に行ってきた。行くのを決めたのは前日の夜だった。その理由というのもまあ不純なものである。 私は半年ほど前からたまにダーツをやっている。これまでは通販で買った初心者セットをなんとなく使っていた…

習作としての読書ノート『シュレーディンガーの猫を追って』第9回

www.sogai.net 第9回 芸能人やスポーツ選手の生い立ちを、再現ドラマを交えながら描く。そんなバラエティ番組を観たことがあるだろうか。複雑な家庭環境、苦しい生活、恩師との出会い、仲間との再会、そしてつかみ取る成功……。そのとき、司会や雛壇の芸能人…

習作としての読書ノート『シュレーディンガーの猫を追って』第8回

www.sogai.net 第8回 書評のようなものをはじめてから2年くらい経つが、ときどき思うのだ。もうこれ、内容をそのまま差し出すだけでいいんじゃないか、と。もちろん著作権的には問題があるのだが、しかし、本音を言えば、やっぱり文章のどこかを切り取ると…

習作としての読書ノート『シュレーディンガーの猫を追って』第7回

www.sogai.net 第7回 第5章「眠れない夜」。 「なぜなぜ期」という言葉がある。2、3歳くらいの子どもが、どんな物事にも「なんで?」「どうして?」と質問ぜめしてくる時期のことだ。それは些細なものから、ときに壮大なものだったり、哲学的なものだっ…

習作としての読書ノート『シュレーディンガーの猫を追って』第6回

www.sogai.net 第6回 前回、引用についていま思っていることを少し書いた。そういった理由で、とくにこの文章において、私は可能な限り長めの引用をしてきた。 なので、ここでは逆に、断片的な引用を並べてみる。逆のことをやってみる。このことが思いのほ…

習作としての読書ノート『シュレーディンガーの猫を追って』第5回

www.sogai.net 第5回 第4章「中国影絵」。そもそも中国影絵ってなんなんだ、とも思うけれど、ひとまず先に進む。ともかく、「わたし」のもとに一匹の猫がやってきたのだ。 「わたし」は、その猫によって思考のあり方が変わってくる。「何でもないようなこ…

習作としての読書ノート『シュレーディンガーの猫を追って』第4回

www.sogai.net 第4回 本題に入るまえに、ちょっとした余談。 昨日、仕事のあと書店に寄って店内を歩き回っていた。ひとつ、綿野恵太『「差別はいけない」とみんないうけれど。』(平凡社)が気になっていて、これは確実に欲しかった。売れ行きが好調だと聞…

習作としての読書ノート『シュレーディンガーの猫を追って』第3回

www.sogai.net 第3回 第二章「すべての猫が灰色に見えるとき」。 日が沈み、雲が月と星々を隠していた。雲は空を覆い尽くし、残された光を奪ってしまう。庭の片隅に、それは姿を現した。リラのすぐそば、ほとんど乾き切った大きな金雀児の近くだ。それは壁…

習作としての読書ノート 『シュレーディンガーの猫を追って』第2回

www.sogai.net 第2回 第一部に入っていく。第一章「むかしむかし、二度あったこと」。 むかしむかし。子どものころを思い出す。おとぎ話のはじまりはいつもこれだった。まさか、この小説は童話になっていくのだろうか。とにかく読み進めよう。 シュレーディ…

習作としての読書ノート 『シュレーディンガーの猫を追って』第1回

最近、やってみたいこととやらねばならないことが重なり、ちょっとどっちつかずになっているような気がする。だから、腰を据えてなにかひとつのことを続けてみようと思った。そこで、ひとつの作品を少しずつ読んでいき、思ったことや気づいたこと、連想した…

世界から見捨てられた人々、世界を見捨てる人々 『ファイト・クラブ』から見るテロリズム

テロリズム、あるいは個人かせいぜい数人の集団による無差別殺人は現代を特徴づける一つのキーワードかもしれない。これらの事象は国内に限らなければ、それこそ毎日のように発生し続けている。それらの原因は政治、経済、宗教、民族など様々な要素に分解さ…

人生の童話~『雪のひとひら』書評~

新装版が1冊と文庫が2冊、となぜか3冊持っている小説がある。(2冊目の文庫はちょっとした行き違いによるものだが。)ポール・ギャリコ『雪のひとひら』(矢川澄子訳)である。 題名通り、「雪のひとひら」と作品内で呼ばれる一片の雪の結晶を主人公とし…

世界を旅する文学 第二回 朝鮮民主主義人民共和国 パンジ 『告発』

知られざる北朝鮮文学 第二回の舞台は朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮と呼称)である。北朝鮮に対する日本人の一般的な印象は、著しく悪いだろう。拉致問題、核ミサイル開発問題などを対外的に抱え、そのうえ内部では抑圧的な政治体制を敷いてるのだから…

『ソガイvol.2 物語と労働』紹介

表紙と裏表紙 表紙に書いてあるようにソガイ第二号のテーマは「物語と労働」です。 紙版はB5版で80ページ、定価は500円です。 電子版もあります 目次と概要(クリックすると該当箇所の一部が読めます) 論考 次元を越えた「瓜二つ」―― 磯﨑憲一郎『赤の他人…

世界を旅する文学 第一回 大韓民国 姜 英淑 『ライティングクラブ』

連載 世界を旅する文学とは この連載では旅をするように世界各国の文学作品を読んでいく。世界中の小説を読んでみたい。英、米、独、仏、露文学などの比較的日本でも読みやすい文学だけでなく。漠然と以前からこんな感情を抱いていたのが今回の企画のきっか…

書評 ジョン・アーヴィング『ピギー・スニードを救う話』

異端者 ジョン・アーヴィング 著者ジョン・アーヴィングは現代アメリカ文学の旗手である。『熊を放つ』、『ガープの世界』、『サイダーハウス・ルール』など日本でも有名な作品が多数ある。ちなみに『熊を放つ』 (中公文庫) の翻訳者は村上春樹である。アー…

アメリカ禁書ランキングトップ10 2016年度版 後編

ランキング一位 「This One Summer」を読んで 一位の「This One Summer」をKindleで購入して読んだ。そもそも同作が禁書になった理由を振り返ろう。LGBTの人物が登場し、薬物が使用され、不敬*1で、「大人びたテーマと相まって性的に露骨」だと考えられたか…

アメリカ禁書ランキングトップ10 2016年度版 前編

アメリカ図書館協会 (en:American Library Association, ALA)は「Top Ten Challenged Books」というランキングを発表している。意訳すればアメリカ禁書ランキングトップテンとも言うべきものだ。ただ、ここでchallengedという言葉は禁書運動のことを指してい…

書評『炸裂志』 閻連科 後編

文責 雲葉零 神実主義とは何か 本作では一種の超現実的な描写方法が取られている。例えば、孔明亮が出世の書類をかざしただけで枯れていた花がまた咲き始める。作者をこの手法を神実主義と名付ける。『炸裂志』に収録されている『神実主義とはなにか-外国版…

書評『炸裂志』 閻連科 前編

文責 雲葉零 閻連科の紹介 村上春樹に返信を送った中国人作家 時は2012年、尖閣諸島問題で日中が激しく対立していた時期に村上春樹は『魂の行き来する道筋』というエッセーを発表した*1。当時、中国の書店から村上を始めとする日本人作家の本が撤去されると…

書評『鏡の中を数える』プラープダー・ユン 後編

『オタッキーな家族』 オタクという言葉よりもむしろ、それぞれが奇癖を抱えている家族といったほうが分かりやすいだろう。少なくとも、彼らはアニメ、漫画、アイドル、鉄道などのよくいるオタクではない。 そこで、家族構成と彼らの奇癖を紹介する。 カーン…

書評『鏡の中を数える』プラープダー・ユン 前編

雲葉 零 『鏡の中を数える』は一二の短編が収録されている、短編集である。この短編集に収められている『存在の有り得た可能性』は東南アジア文学賞を受賞している。また、訳者はタイ文学者で東京外国語大学名誉教授の宇戸清治である。 プラープダー・ユンは…

下流文学、あるいは読まれない小説達のために

下流文学とはなにか? この単語を知らないと言って恥じることはないし、検索する必要もない。何故ならば、私が創造した単語であるからだ。しかも、その概念を公開するのはこれが初めてなので、知っているはずがない。だから、まずは簡潔に下流文学の定義を述…