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アメリカ禁書ランキングトップ10 2016年度版 前編

 アメリカ図書館協会 (en:American Library Association, ALA)は「Top Ten Challenged Books」というランキングを発表している。意訳すればアメリカ禁書ランキングトップテンとも言うべきものだ。ただ、ここでchallengedという言葉は禁書運動のことを指している。対してbanningという言葉は実際に本棚から本が取り除かれたり、閲覧が制限されることを指している。なのでこのランキングに乗っていても、実際に禁書にされているとは限らない*1

 また禁書にされたと言っても、必ずしも政府や公権力が主体的にそう命じたというわけでもなさそうだ。禁書運動に屈して、図書館が本棚から撤去したことも禁書の一種として捉えているからである。また、全米で一斉に禁書にされたわけでもない。

 タイトルにあるように今回は直近の2016年度を翻訳、紹介する。全てを逐語訳しているわけではなく、省略したり、情報を加えたりしている。なお、筆者は専門の翻訳者というわけでもないので、誤訳が生じている可能性はある。気づいた方は、ぜひ指摘してほしい。保険をかけるようで恐縮だが。

 それぞれの本の題名の和訳は、必要ないだろうと思われるほど簡単なものは省略した。

 

1 This One Summer  マリコ・タマキ 著  ジリアン・タマキ イラスト

 第一位を獲得したのはグラフィックノベル*2の「This One Summer」だ。 第一位なので少し詳しく説明しよう。著者とイラストレーターは名前を見ても分かる通り、親戚で日系人である。二人はいとこの関係に当たる。また、マリコ・タマキはユダヤ系カナダ人とのハーフである*3。彼女の国籍はカナダであるが、ジリアン・タマキの国籍はアメリカである。

  アマゾンの商品紹介を翻訳しよう。

 

 毎年夏になると、ローズは母と父と一緒にアワゴ湖畔の家に出かける。これは彼らの逃亡であり、彼らの隠れ家である。ローズの友達、ウィンディもまた、いつも一緒にそこにいる。ローズには、いたことがない妹のように。しかし、この夏は違っていた。ローズの母と父は争うのをやめない。ローズとウィンディがその劇的な状況の中から、気晴らしを求めようとした時、彼女たちは、自身たちが全く新しい問題の渦中にいることに気づく。

 それは夏の秘密、悲しみ、成長。ローズとウィンディがお互いに経験した愛しい出来事。*4

 

 ヤングアダルト向けの本書はベストセラーである。だが、閲覧制限や、図書の移転、禁書などの措置が取られることになった。LGBTの人物が登場し、薬物が使用され、不敬で、「大人びたテーマと相まって性的に露骨」だと考えられたからである。

 

2 Drama ライナ・テレジマイアー 著

 一位に続いて二位もグラフィックノベルである。ヤングアダルト向けの本書は、親たち、図書館員、行政官によって禁書にされた。その理由はLGBTの人物が登場し、性的に露骨で、「政治的に不快な観点を含んでいる」と考えられたからである。

3  George アレックス・ジノ著

 二つの賞を受賞したにも関わらず、行政官は本書を本棚から取り除いた。トランスジェンダーの子供が登場し、「セクシャリティーが小学生には不適切」だからである。

4 I Am Jazz ジェシカ・ハーシェル、ジャズ・ジェニングス 著 シーラ・マクニコラス イラスト

 子供向けの絵本であり、筆者の回顧録でもある本書は禁書運動が起き、実際に本棚から取り除かれた。その理由はトランスジェンダーの子供を描写しているからである。言葉遣い、性教育、不快な物の見方もまた原因となった。

5 Two Boys Kissing  デイヴィッド・レヴィサン 著

このヤングアダルト小説は以下の理由で禁書運動が起きた。すなわち、表紙が二人の少年がキスをする画像であり、「LGBTの文脈で性的に露骨」であると考えられたからである。

6 Looking for Alaska(アラスカを求めて) ジョン・グリーン 著

 生徒を「性的冒険」に導きかねない、性的な露骨なシーンにより、このヤングアダルト小説は禁書運動を起こされ、閲覧を制限された。

7  Big Hard Sex Criminals マット・フラクション著 チップ・ズダースキー イラスト

 性的に露骨と、図書館員と行政官にみなされ、この大人向け漫画は禁書運動を起こされ、禁書にされた。

8 Make Something Up: Stories You Can’t Unread(間に合わせる。あなたが読まないことができない物語) チャック・パラニューク 著

 個人的にこの本が入っていたのは驚いた。というのも筆者はパラニュークの熱烈なファンだからである。邦訳された本は全て持っている。またこの本の原著も持っている。正確に言えば、原著といっても日本語訳がないのだが。

 世間的に言えば、パラニュークは映画「ファイト・クラブ」の原作者として有名である。過激な作風だから禁書運動の対象にされるのは違和感がない。本書は大人向けの短編集で、ニューズウィークニューヨーク・タイムズから肯定的な批評を送られている。

 禁書申し立ての理由は以下のようなものである。不敬、性的に露骨、「実に嫌で不快」。

9 Little Bill (series) ビル・コスビー 著  バネット・ハニーウッド イラスト

 この子供向けの本は著者が性犯罪を犯したとする主張のため、禁書運動が起きた。

10 Eleanor & Park レインボー・ローウェル 著

 本書は不快な言葉遣いのため、禁書運動が起きた。

 

 これら一〇タイトルのうち、五タイトルが禁書の異議申し立てが起きた図書館の本棚から取り除かれた。

 後編ではアメリカ図書館協会のデータを元に、アメリカの禁書運動の分析や表現の自由についての考察を行う。

 文責 雲葉 零

 

参考文献 

Top Ten Challenged Books: Resources & Graphics | Advocacy, Legislation & Issues American Library Association 

Tamaki no fake - NOW Magazine

https://www.amazon.co.jp/This-One-Summer-Mariko-Tamaki/dp/159643774X

This one summer 商品ページ AMAZON

上記はいずれも2017年9月8日に最終閲覧した。

*1:

http://www.ala.org/advocacy/bbooks/banned-books-qa

*2:簡単に言えば漫画のこと。だが、ノベルという言葉が入ってることからわかるようにコミックよりは硬めの内容。余談だが、片や日本にはライトノベルという小説のジャンルがあるのは面白い

*3:

https://nowtoronto.com/art-and-books/books/tamaki-no-fake/

*4:

https://www.amazon.co.jp/This-One-Summer-Mariko-Tamaki/dp/159643774X