ソガイ

批評と創作を行う永久機関

迷いながら書く―小川国夫を読みながら感じたこと

先年、日本近代文学館に初めて行ってきた。「没後十年 小川国夫展―はじめに言葉/光ありき―」を観に行くためだ。私は最近、小川国夫という作家に興味を持ち始めた。そんな折にTwitterをのぞいていたら、まさに渡りに船、こんな展示が催されていることを知っ…

ただ「一つ」を求めて~森内俊雄『道の向こうの道』からの道~

小さいころ、私はけっしてからだが強い方ではなかったらしい。お風呂に入ると肌はすぐに真っ赤になるし、しょっちゅうお腹の調子を崩しては寝込む。定期的に鼻血は出すし、水疱瘡にもおたふく風邪にもしっかりかかった。 中学生、高校生となるにつれて、だん…

選択と自由について考えたこと SchoolDaysを手掛かりに

「嫌ならやめればいいじゃないか」 というような言葉を発した、あるいは聞いた経験がある方は多いのではないか。例えば、酒場でサラリーマンが会社の愚痴を知人に言ったときに。あるいは、喫茶店で友人から恋人の愚痴を聞かされた時に。確かに、ある会社に勤…

もはや私小説―秋山駿『人生の検証』

この本が、Kindleで432円で読めるということに、驚きをおぼえずにはいられなかった。良い時代になったものだ、とこんなところで感じることになるとは、思いもよらなかった。 秋山駿『人生の検証』(新潮社)は、ちょうど平成に元号が変わったあたりに発表さ…

「恋愛」は日本語?「モアベター」は英語?―柳父章『翻訳語成立事情』から

明治期の文章を読んでいると、いわゆる横文字の単語がそのままの音で使われていたり、漢字の熟語のルビとして振られていたりして、いまの時代の読者からすると、少し変な感じがすることがある。 有名な例だと、夏目漱石の小説にしばしば出てくる「停車場」と…

中村文則『掏摸』 運命へのささやかで確かな抵抗

中村文則の『掏摸』を近所の本屋で買って読んだ。 著者の名前やその著作『教団X』などは知っていた。しかし、彼の著書を読んだのはこれが初めてであった。なぜこの作品を最初に選んだのかと言えば、著者が友人相手にこの小説を書くために掏摸の練習をしたと…

地に足を付けるための勉強―荒木優太『これからのエリック・ホッファーのために』を読んで考えたこと

いまは、多くの大学生が卒業論文に苦しんでいる時期かと思われる。場所やゼミにもよるだろうが、まあ少なくとも二万字を越えるような文章を書く機会、というものは、そうあるものではない。 図書館に通い詰めて参考文献を読みあさったり、あるいは専攻分野に…